「玉川堂(ぎょくせんどう)」燕三条の伝統工芸品・鎚起銅器の老舗 〜銅の多彩な着色はオンリーワンの技術

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燕三条の伝統工芸品、1枚の銅板を鎚で叩き起こして銅器を製作する「鎚起銅器(ついきどうき)」の技術を継承する「玉川堂(ぎょくせんどう)」の工場見学をしました。創業は1816年、200年の歴史を誇る企業です。銅を多彩に着色する技術は「玉川堂」だけの技術なのだそうです。特に「玉川堂ブルー」と呼ばれる深い青で知られます。

「玉川堂(ぎょくせんどう)」の工場見学

現在の当主は7代目です。重要無形文化財「鍛金」の保持者である玉川堂第5代当主玉川覚平の次男・玉川宣夫が、2010年に人間国宝に認定されています。

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「玉川堂」では、普段は銅を叩いてやかんなどを作っています。明治の大火事で今の場所に移転してきましたが、母屋は築100年ちょっとの町屋造りです。

もともと、近所の山で銅が取れたことから、家の釘を作ったのがルーツとのことです。釘だけでなくやかんなども作るようになりましたが、三条は刃物、燕は鍋釜などが伸びたのだそうです(燕と三条をあわせて燕三条と呼ぶ)。

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初代はやかん、たらい、鍋からスタートし、2代目、3代目は国策として海外の万博に出ました。そこで道具に装飾の要素が加わっていきました。

仕事としては必ずしもずっと順風満帆だったわけではなく、仕事がない時もあったそうです。現在は職人が20人、そのうち女性が5人とのことです。

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作業所は築80年ほど。ここで鍛金、彫金を施しています。鍛金とは、金属を烏口にあて金槌で打つことで形を変えていく技法です。彫金は模様を浮き立たせる技法です。鍛金、彫金は職人の手作業のため大量生産できず、それは価格に反映されます。

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現在は茶器、酒器がメインで、やかんや急須なども作っているそうですが、一体成型の口打ち出しで50万円くらいだそうです。金額だけを聞くと高く感じますが、実際に作るには一個に集中しても10日くらいかかるそうで、単に高いとは思えなくなります。その証拠に、それだけの価格でも2ヶ月待ちなのだそうです。

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職人が座っているのはケヤキの木で、衝撃に耐えるためなのだそう。金具は当てがね、鳥口と呼ばれるが、200種類くらいあるそうです。金槌、木槌は300種類くらいあり、それを作るものに合わせて選びます。

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作業としては、叩いては焼く、を繰り返します。銅は叩くと硬くなり、焼けば柔なくなるので後から加工しやすいそうです。焼きなましという工程を入れ、柔らかくして作業します。

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彫金には肉彫りという、裏に下絵を描いて打ち出していく手法が用いられます。昔は贈り物とされることも多く、玄関などに飾られたそうですが、今では需要がなくなり(装飾よりもシンプルなものがウケる)、彫金師は一人しかいないそうです。

ちなみに職人の平均年齢は33、34歳ということで、思っていた以上に若い人が多いことに驚きました。確かに見える範囲で働いている人たちは若かったです。毎年、美大などから約30人の新卒の応募があるそうですが、なかなかその人数に対応するのは難しいとのことでした。一人前の目安は15年です。

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銅そのままだと緑青が出るので「玉川堂」では色付けをします。化学変化で色付けしますが、錫を焼き付けたり、硫化カリウムに入れて変色させたり、時間をコントロールして色を変えるのが、オンリーワンの技術です。

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煮る、焼く、温度のコントロールで、7〜8色の色を出しますが、中でも特に「玉川堂ブルー」と呼ばれる深い青が特徴となっています。

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第二の液体に秘密があり、液体は継ぎ足ししている秘伝のタレのようなもので、手間もかかるし真似しにくいのだそう。独立する職人には、秘密のタレを分け与えたそうです。

銅板はチリやボリビアから仕入れています。昔は塊を板から打ち上げていましたが、今では日本では採算の合う銅は取れなくなっています。

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実は「玉川堂」の工場見学は、予約なしで訪れても受け付けてもらえるのです。これには驚きました。通常、工場見学といえば前日までの予約となっているところが多いのに。

※見学はふらっときてもOK、日曜祝日、昼休みは休み、団体は予約で。

しかし「玉川堂」が工場見学に力を入れるのには理由があります。それは生産現場を見てもらうことで距離が縮み、価格に対する納得感が出る、お客さんの使い方が変わる、といった効果があるのだそうです。実際に見学した身からすると、納得です。

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燕三条として積極的に工場見学を受け入れることで(10軒くらい工場見学できる)、4年前は700人だったのが今年は4,000人を超える見込みなのだとか。外国人観光客はそのうち200人くらいで、アジアからが多いそう。

燕三条に行けば、道具の工場見学ができる、というイメージが着実にできつつあるのでしょう。「価格ではない価値を燕三条に感じて欲しい」とおっしゃっていたのも印象的でした。

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これは「ここには私たちがカワイイと思うものがない」という女性の職人の言葉から生まれたものです。「ずっと男性目線だった」ところに、初めて女性の視点が入り、生まれたものです。こうして少しずつ、伝統も変わっていくようです。

さて「玉川堂」を始めとした燕三条の工場見学に興味を持たれた方には、2016年10月6日(木)〜10月9日(日)に燕三条の工場の祭典として「KOUBAフェスティバル」が開催されます。普段は見られないようなところにも入れるイベントで、人気のあるイベントに成長しつつあるそうです。昨年は4日間でのべ19,000人、4割が県外から訪れました。オフィシャルツアーもありますので、興味のある方はぜひ!

「玉川堂(ぎょくせんどう)」のアクセス

住所:燕市中央通2丁目3064

>>無形文化財 鎚起銅器「玉川堂」- GYOKUSENDO | 雪国新潟で二百年に渉り銅器づくり一筋に歩んできた玉川堂、幾時代の風雪を乗り越え、国内で唯一鎚起銅器の技を継承しています。

記事に関して

新潟県観光協会主催のプレスツアーに参加して記事を執筆しています。