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(「舌打たず」作者 立川流落語家 立川吉笑さん 撮影:四家正紀)

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四家正紀と申します。ごく平凡な落語好きのブロガーです。落語を聴きに行っては、ブログを書いています。

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前回は、生落語未経験の方に、どうぞもっと気楽に生で落語を楽しんで欲しい、というお話をさせていただきました。

実は、こんなことを気楽に書いてしまったことを、反省しております。

あのですね。「気楽に楽しむ」といっても、落語って、種類が多すぎるんですよ。

まず、とにかくジャンルが幅広い。

よく「古典落語」「新作(創作)落語」という分類がありますが、一口に古典と言っても江戸・明治・大正あたりまでカバーしている時代も幅広く、噺の趣もそれぞれに違います。

その時代の落語家が創作したものもあれば、説話・民話に材を取ったもの、僧侶が仏教の教えを伝えるために作った笑い話、中国の笑い話、歌舞伎、講談などさまざまなネタ元があり、笑わせる噺から泣かせる噺まで、長い時間をかけて工夫が施され、今に伝わっています。

一方で新作落語の中には、「動物園でパンダたちが二代目襲名で揉める」(「真夜中の襲名」作・三遊亭白鳥)というような奇想天外な噺もあれば、「不倫に疲れたアラサー女性がパワースポットを求めて神社に行ったら、巫女がバイトの女子高生で‥‥」(「人祓い神社」作・三遊亭粋歌)などという、きわめて現代的な筋立ての噺もあります。

「お馴染みのお古いところでぇ」というから古典落語だと思って聴いていたら「八っぁんとご隠居が、言葉を使わずに舌打ちとまばたきだけでどこまでコミュニケーションが成立するか挑戦する」という、ぶっ飛んだ新作(「舌打たず」作・立川吉笑)だったりします。こういう噺を「擬古典」というらしいのですが、まあとにかく油断なりません。

もう一つ「漫談」というジャンルもあって、これは落語家が何かを演じることなく、自分の一人称で面白い話をするもので、時事ネタや身辺雑記的なものが題材となります。

笑える噺もあれば泣ける噺もあり、めちゃくちゃ怖い噺もあれば、子どもに聴かせられないエロい噺もあります。大したことは何も起こらないのに最後まで引き付けられて、なんとなく終わってしまう噺なんかもあります。

いずれにしても、落語家が一人で複数の人物・動物を演じる、というあたりが、かろうじて共通点でしょうか。

演じ方についてもそうです。

たいていの落語は「ひとりの演者が着物姿で座布団に座り、扇子と手拭いだけを小道具に演じる」ことになっています。

しかし、見台と呼ばれる木でできた小さな机を前に置き、小拍子を使い音を立てながら喋るスタイルは、上方落語ではごく一般的です。他にもいろいろと小道具を使うこともあります。

さらにはなんと、洋服を着て椅子に座って演じられる落語もあるのです(柳家花緑「同時代落語シリーズ」など)。

要するに、めちゃくちゃ自由で、自由すぎてつかみどころがないのです。

落語におけるこの自由さは、音楽におけるロックと似ていますです。単純明快なロックンロールもあれば、アートロック、ハードロック、ヘビーメタル、プログレ、フォークロック、カントリーロック、グラムロック、グランジ、ネオアコ、えーっとなんだっけ、テクノも入れていいのかな。とにかく「ロック」って自由でつかみどころがなくて、知らない人に説明しにくい、このあたりは落語と似ている。

一方で「一つの作品をいろんな人がそれぞれのやり方で演じる」という点では、落語(とくに古典落語)はジャズのスタンダードナンバーに似ています。

落語は伝統芸能ですから、ある噺を初めて掛けるときには、まず師匠や先輩落語家に教わる、というのが一つのルールとなっています(もちろん自作の場合は別)。

しかしこの場合でも、習ったまま演じるのではなく、自分で様々な工夫をすることが許されているので、たとえば五代目柳家小さんの「松曳き」とその弟子である立川談志の「松曳き」は、同じ噺とは思えないくらい違います(どっちも生で聴けないのが残念ですが)。

さらに、大阪弁をまくし立てる「金明竹」という古典落語を九州弁にアレンジした「陳宝軒」(作・林家きく麿)のように、従来からある古典を大幅に改編した「改作」というジャンルもあるのです。

そして前回も書いた通り、約700人の落語家がいて、それぞれが異なる個性を持っています。
年齢もバラバラで、若いのは二十歳前、最高齢は87歳の桂米丸師匠です。そういえば女性落語家も増えています。


会場もそうです。よみうりホール(定員1100)と池袋演芸場(椅子席100弱)じゃ印象がまるで違う。同じよみうりホールでも前のほうと2階席じゃ、もう、全然違います。

実にまあ、落語っていっぱいあるんです。これがややこしい。

考えてみれば映画だって実にいろんな映画があるのですから、落語だけが特別ってわけでもないのです。しかし落語未体験者は、落語についての知識がなく、落語なんてみんなおんなじだと思ってますよね。
だから、たまたま初めて行った寄席で、初心者にはその面白さが分かりにくい、渋い演者・演目が続いてしまうと「なんかよくわからないなー、つまんないなー」と、もう二度と行かなくなってしまうのです。「寄席行ってみたけど落語つまんなかった」という人がいますけど、だいたいこのケースです。

それは、余りにももったいない。たまたま巡り合わせが悪かっただけで、この世界には、こんなにいろんな落語があるのに。なかにはあなた向きの落語も、あるかもしれないのに。

というわけで、次回からはいよいよ「ブロガー的・初めての生落語」についてお話いたします。今日のところは「落語ってホントにいろいろあるので、一回聴いただけで嫌いにならないでね」とだけ、お願いをしておきます。ではまた。

※今回の原稿については立川談笑師匠の以下のツイートからヒントを頂いております。ありがとうございました。

談笑師匠のお弟子さんで、冒頭の写真および本文にも登場した立川吉笑さんの二ツ目昇進記念独演会が10月24日 国立演芸場で開催されます。談笑師匠もゲストで出演します。詳細はこちらまで。

ブロガー的・生落語のススメ(3)に続く

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プロフィール
四家正紀(しけ まさのり)1967年生まれ 都内IT企業勤務
ブログ「裏[4k]」にて落語に関するエントリーを200本以上執筆し、現在も継続中。先日スタートさせた限定20名の小さな落語会「シェアする落語」第1回(出演:立川談吉)は3日で完売。第2回も開催予定。
落語家と落語会主催者をブロガーの立場で応援するために、日々模索してます。

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